493−1.2012年11月3日、憲法のつどい ヒロシマ2012 (1)〜(10)
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今年で憲法制定から66年の憲法記念日、全国委各地でも催しが行われましたが、広島では広島平和記念資料館メモリアルホールで、午後1時30分から行われました。

司会は「女性9条の会・ひろしま」の吉田真理子さん。

 
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今年は「広島・沖縄・福島をつなぐもの」とメーンタイトルを打って、「広島県9条の会ネットワーク」(老舗の「第9条の会ヒロシマ」も入っています)が主催、共済は「ひろしま医療人・九条の会」です。

 

  (3)はじめに、広島県保険医協会副理事長、上田善清さんが開会挨拶。 
 
  (4)高橋美香さんが詩の朗読。  
    2つの詩

神隠しされた街(若松丈太郎)、礎(いしじ)に思いを重ねて(金城美奈) を朗読されました。

詩は下に掲載しています。

                             

 

                          

 

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高橋美香さんのプロフィール

1982年生(広島県庄原市)

 2000年広島女学院大学に入学。

在学中、学内で開催された原爆朗読劇に参加したことをきっかけに、

土屋時子さんと共に朗読活動に参加するようになる。

主な活動は、毎年開かれている「8.15原爆・反戦詩を読む市民の集い」での朗読。

好きな詩は、栗原貞子さんの「ヒロシマというとき」

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高橋さんは、1982年生(広島県庄原市)。2000年広島女学院大学入学。在学中、学内で開催された原爆朗読劇に参加したことをきっかけに、土屋時子さんと共に朗読活動に参加するようになる。主な活動は、毎年開かれている「8.15原爆・反戦詩を読む市民の集い」での朗読。好きな詩は、大平数子の「慟哭」と栗原貞子の「ヒロシマというとき」。

 

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  (8)司会の吉田真理子さんから、この日のメーン講師の高橋哲哉さんの紹介。   
   
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高橋哲哉さんは、1956年福島県生まれ。東京大学大学院人文科学研究科博士課程単位取得。専攻は哲学。南山大学講師等を経て、東京大学大学院総合文化研究科教授。

著書に『逆光のロゴス』『記憶のエチカ』『デリダ』『戦後責任論』『歴史/修正主義』『「心」と戦争」証言のポリティクス』『<物語>廃墟から』『反・哲学入門』『靖国問題』『国家と偽性』『状況への発言』『偽性のシステム 福島・沖縄』(集英社新書)『いのちと責任』(高史明氏との共著、大月書店)がある、と紹介されました。

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    神隠しされた街   

                              若松丈太郎

 

四万五千の人びとが二時間のあいだに消えた

サッカーゲームが終わって競技場から立ち去ったのではない

人びとの暮らしがひとつの都市からそっくり消えたのだ

ラジオで避難警報があって

「三日分の食料を準備してください」

多くの人は三日たてば帰れると思って

ちいさな手提げ袋をもって

なかには仔猫だけを抱いた老婆も

入院加療中の病人も

千百台のバスに乗って

四万五千の人びとが二時間のあいだに消えた

鬼ごっこする子どもたちの歓声が

隣人との垣根ごしのあいさつが

郵便配達夫の自転車のベル音が

ボルシチを煮るにおいが

家々の窓の夜のあかりが

人びとの暮らしが

地図のうえからプリピャチ市が消えた

チェルノブイリ事故発生四十時間後のことである

千百台のバスに乗って

プリピャチ市民が二時間のあいだにちりぢりに

近隣三村あわせて四万九千人が消えた

四万九千人といえば

私の住む原町市の人口にひとしい

さらに

原子力発電所中心半径三〇qゾーンは危険地帯とされ

十一日目の五月六日から三日のあいだに九万二千人が

あわせて約十五万人

人びとは一〇〇qや一五〇q先の農村にちりぢりに消えた

半径三〇qゾーンといえば

東京電力福島原子力発電所を中心に据えると

双葉町 大熊町

富岡町 楢葉町

浪江町 広野町

川内村 都路村 葛尾村

小高町 いわき市北部

そして私の住む原町市がふくまれる

こちらもあわせて約十五万人

私たちが消えるべき先はどこか

私たちはどこに姿を消せばいいのか

事故六年のちに避難命令が出た村さえもある

事故八年のちの旧プリピャチ市に

私たちは入った

亀裂がはいったペーヴメントの

亀裂をひろげて雑草がたけだけしい

ツバメが飛んでいる

ハトが胸をふくらませている

チョウが草花に羽をやすめている

ハエがおちつきなく動いている

蚊柱が回転している

街路樹の葉が風に身をゆだねている

それなのに

人声のしない都市

人の歩いていない都市

四万五千の人びとがかくれんぼしている都市

鬼の私は捜しまわる

幼稚園のホールに投げ捨てられた玩具

台所のこんろにかけられたシチュー鍋

オフィスの机上のひろげたままの書類

ついさっきまで人がいた気配はどこにもあるのに

日がもう暮れる

鬼の私はとほうに暮れる

友だちがみんな神隠しにあってしまって

私は広場にひとり立ちつくす

デパートもホテルも

文化会館も学校も

集合住宅も

崩れはじめている

すべてはほろびへと向かう

人びとのいのちと

人びとがつくった都市と

ほろびをきそいあう

ストロンチウム九〇 半減期   二七.七年

セシウム一三七   半減期      三〇年

プルトニウム二三九 半減期 二四四〇〇年

セシウムの放射線量が八分の一に減るまでに九十年

致死量八倍のセシウムは九十年後も生きものを殺しつづける

人は百年後のことに自分の手を下せないということであれば

人がプルトニウムを扱うのは不遜というべきか

捨てられた幼稚園の広場を歩く

雑草に踏み入れる

雑草に付着していた核種が舞いあがったにちがいない

肺は核種のまじった空気をとりこんだにちがいない

神隠しの街は地上にいっそうふえるにちがいない

私たちの神隠しはきょうかもしれない

うしろで子どもの声がした気がする

ふりむいてもだれもいない

なにかが背筋をぞくっと襲う

広場にひとり立ちつくす

 


 

    礎(いしじ)に思いを重ねて

                           金城美奈

 

月桃(げっとう)の花が白くきらめく頃

私はあの手紙と出逢(であ)った

それは祖父の兄が家族に宛てた

一通の手紙

彼の人生で家族に送った

最後の手紙

 

第三中学校から届いたその手紙には

戦争のことは

何一つ書かれていなくて

勉学に励み

家族を思いやる

真っすぐな青年の心が記されていた

 

これから迫る

黒い影とは対照的に

その手紙は温かく

誠実さで溢(あふ)れていて

白い光で包まれているようだった

 

この手紙と出会った後

私は初めて

彼の礎(いしじ)の前に立った

 

礎に刻まれた

その名前

ぎらぎらと太陽に照りつけられた

その名前

指でなぞると一文字一文字が

焼けるように熱くて

あなたの思いの強さが伝わってくる

私のこころに伝わってくる

 

礎に刻まれた

あなたの名前は

とても小さくて

とても窮屈そうで

この文字では表せないほどの人生が

あなたにはあった

この文字では抱えきれないほどの未来が

あなたには待っていた

 

でも何もかもを奪われてしまった

 

あなたが過ごしたあの島は

地図に書かれたあの島は

沖縄から遠くて離れていて

広大な海に囲まれている

 

あの遠い島から

あの広い海から

あなたはまだ戻らない

あなたはまだ戻れない

 

あの日から時は止まったまま

針は動かぬまま

 

あなたと同じくらいの歳(とし)を迎えた今

私は考えている

戦争について

平和について

でも

あなたと同じくらいの歳を迎えても

私は考えられない

 

遠い島で過ごすことを

家族と離れて暮らすことを

私は考えるのが怖い

だけど

辛い現実と向き合った

あなたがいるから

私は今安心して一日を迎えられる

明日が来るのを待つことができる

 

今年も時を刻む

六月二十三日

正午に手を合わせる私の肌を

柔らかな風が

そっと包み込み

確かな思いが溢れ出す

 

あの過ちを

二度と起こしてはならない

あの苦しみを

二度と蘇(よみがえ)らせてはならない

 

人々の心に

色をそえることができるなら

暗く沈んだ色ではなくて

明るく澄んだ色で彩りたい

 

人々の未来に

橋を架けることができるなら

先の見えない不安定なものではなくて

力強く進める丈夫なもので繋(つな)げたい

 

そして

人々の世界を

一つの言葉で表すことができるなら

戦争ではなくて

平和であると断言したい

 

六十七年前を生きた人々の後ろに

私たちは続いている

私たちにできることは

あの日を二度と呼び戻さないこと

私たちに必要なことは

あの日を受け止めて語り継ぐこと

 

礎に刻まれた人々の

届けたかった思い

叶(かな)えたかった願い

 

私たちが届けよう

私たちが叶えよう

 

礎に思いを重ねて