106−3.2003年10月14日.戦闘機廃棄のNZ元国防副長官、ディック・ジェントルズ氏講演会(21)〜(25)

 (21)  
 活発な討議が続きます。「憲法は死んだ」という意見には反対という声も
 (22)  
 受付、書籍販売の藤井さんや奥原さん
 (23)  
   岡本三夫さんも「憲法は死んでいない!」と発言。
 (24)  
 最後に、横原由紀夫さんからも質問が
 (25)  
 ジェントルズさん、ありがとうございました。講演会はこれで終わり。今から2次会へ行きます。(筆者はこの仕事があるので退散)

             

「平和への意思・非軍事への道」ディック・ジェントルズさんのお話しを聞いて

原水禁/第九条の会ヒロシマ(ピースリンク構成団体)世話人 

さとうしゅういち

はじめに

NZの元防衛次官のディック・ジェントルズさんが、13日、ピースリンク広島・呉・岩国、ピースデポの招きで来広され、呉市内のYWCAで講演されました。

最初に、当会世話人の湯浅から挨拶。

「まず、衆議院解散ありきになってしまい、テロ対策特別措置法が(拙速な審議で)とおってしまった。こういうときだからこそ、冷静に考える必要がある。ピースデポでは、トヨタ財団の支援を受けて、「市民社会が構想する北東アジアの平和の枠組み」に取り組んでいる。

NZは、3年ほど前から防衛政策の転換を行なっているがその張本人であるディックさんに来ていただいたと言うことで(平和運動家を呼ぶ通常の講演会とは一味違い)示唆に富むものになろう」。と期待を表明しました。

ヒロシマとNZの縁

続いてジェントルズさんが挨拶。
「個人的に非常に感謝している。NZは地球の片隅に隔離されていると言う感じがするが、今日、安保上の重要な問題に直面している日本の現実を(呉基地の見学を通じて)知ることが出来、感謝している。

広島への原爆投下は、NZの非核政策の動機にもなっている」とヒロシマとNZの縁をアピールしました。

そして、その証拠として「NZ軍は連合国の一員として、一万二千人ほどが日本に駐留し、島根や山口、江田島にもいた。日本人と接し、そのことが、NZ人の日本観を良い方向へ変えている。」と、わたしも始めて聞くことを披露されました。

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NZは、スカイホーク戦闘機をF16(ファイティングファルコン)に買い変える契約をすでにしていたのですが、1999年、労働党が政権につくと、それを破棄し、2001年には、空軍の戦闘部門を解散してしまったそうです。

もちろん、そのことは、米国や豪州などの同盟国に衝撃を与え、「1984年にNZが非核政策をとった時以来の論争を生み出した」のです。

さて、これらの政策決定の裏にはなにがあるのか。実は、大変深いそうです。
NZの地政学的位置と防衛政策の背景NZは、日本とほぼ同じ面積の国です。温暖な気候であり、日本と同じく先進工業国です。しかし、太平洋が「堀」となって守ってくれる環境にあるのです。

一方で、NZは、イギリスの植民国家(国旗はイギリスの国旗を含んでいる)としての過去があり、NZ人の意識は大英連邦ないし欧州の一員としての意識も強いそうです。

そして、貿易がGDPのなんと50%を占めています。観光や教育が大きな産業で、留学生がたくさんやってくるそうです。

「NZにとっては、人やモノが安全に移動できる国際環境が重要であり、世界情勢に強いつながりがある、」といいます。

たしかに人口は400万人。GDPは日本の1.6%に過ぎません。ちなみにこれは広島県よりも小さい経済規模です。この規模だと、単独で工業国を維持するのは市場規模が小さいために難しいと言えます。

NZにとって、とにかく「祖国を守る」は関心事ではないのは一貫しています。軍事的脅威がないからです。それよりは、いかに世界の国々と交易を維持するかです。

そして、そもそも、安保問題は、NZのような小さな国でとりくめず、他国との協調しかないのです。

その枠の中で同国の防衛政策は動いてきたと言えます。イギリスの「腰ぎんちゃく」時代も80年代半ばまで、NZは、イギリスなどがリードする集団防衛機構に参加していました。

両大戦、朝鮮戦争、マレー半島、インドネシア、ベトナム戦争などに派兵し、1989年まではシンガポールに一大隊がいたそうです。要は、イギリスを補完していたということです。

NZは、自国の利益を守るためにこういうことに参加、それゆえ、国連のPKOにも積極的だそうです。500名のNZ人が国連の活動に参加しています。

現政権の政策転換

しかし、1999年に成立した現政権は、「国防政策の目的」を策定。空軍を解散し、一方、PKO用に対応した陸軍は近代化を図りました。
政府の中にも憂慮する人は居たので、慎重に包括的に研究を進めたそうです。
そして、明確な優先順位をつけ、重点的に御金をつかうことにしました。

そして、社会福祉や教育に御金を回すこととしました。年金問題を梃子に消費税増税を与党も野党の一部も主張し、義務教育国庫負担金廃止が議論される一方で、
MD導入、米軍支援など歯止めがない日本と正反対です。

「存在しない脅威に御金をつかうのはおかしい。」シンプルですが、正しいと思いました。
「NZが空軍を使うような状況なら世界中が戦争だ。しかし、そんな状況でNZのような
小国は全面展開は期待されていない。よって政府は空軍を維持する必要はない」
との結論に達したそうです。

軍備管理と軍縮

NZは、軍備管理、軍縮に積極的で、核廃絶運動をつねにリードして来たそうです。また、小火器の拡散防止にも重要な役割を果たしました。南太平洋での安全保障の
脅威を除くためです。

また、NZは、全ての戦時国際法を遵守しているとのことです。「国が自分自身は守るが、他の脅威にはならない」と言う意味で「緩やかな専守防衛」といえる、といいす。

また、非核政策の理由として、核保有国(アメリカ)となまじ同盟していると、ソビエトの核攻撃の対象になりかねない、それを防ぐためだ、といいます。

このことは、北朝鮮の脅威を理由に、アメリカ追随を主張し、イラク戦争を支持した小泉内閣につめの垢をせんじて呑ませたやりたいくらいです。

NZは、また自国より小さい南洋諸島の国々の懸念を払拭する様外交努力をしているそうです。

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欧米重視から太平洋重視へ

NZの防衛政策の考え方には、今までみてきたように、米英などの一部をになう安保政策と、南太平洋の一員としての道の間を行ったり来たりしていたそうです。
現在は、大国中心の枠組では、安保にならない、却って大国の戦争に巻き込まれかねない、という考えが強いそうです。近隣と良い関係を保ち、非核地帯などを推進しています。
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日本への提言−−−人間の安全保障へ

ジェントルズさんは、「日本はNZと違い大国で、北東アジアに位置して様々な大国の利益が交錯し、朝鮮半島や台湾海峡などが近くにある。しかし、安全保障について、「軍事だけにとらわれず、包括的に考えて欲しい」といいます。

「軍事的防衛のみを考えると、紛争の根本原因から目をそらすことになる。北朝鮮のミサイルについても、それだけに着目すると、ミサイル防衛をすべきという考え方に陥り、軍拡競争に巻き込まれてしまう」と警鐘を鳴らします。

「防衛力を持つなとはいわないが、恒久的解決方法ではない。NZの教訓は、軍事だけでなく幅広い視野での対応だ。」といいます。

そのうえで、例えば経済安全保障、環境やエネルギーなどの問題にもっと目を向けて欲しい、と強調します。これらを考えると、北朝鮮問題など片隅に追いやられてしまう、といいます。

「人間の安全保障が大事だ。「個人の安全保障」あってはじめて国家安全保障がなりたつ」といいます。

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質疑応答でも、イラク戦争に関してはNZはアメリカを支持せず、戦争が始まっても派兵しなかったそうです。国連の枠組でのみ、役割をはたすつもりだということです。

また、NZは、アメリカとの軍事同盟は解消したが、貿易はなくなっていない、軍事同盟はなくしても他で関係を続けられる「成熟した関係が必要」と日本人にたいしてアドバイスをしました。

ある意味、日本政府がひとつの選択肢(経済でも外交でもアメリカ追随、憲法破壊)しかしめしていないようないまこそ、冷静かつ、幅広い視野をもつことが大事だと思いました。このことを明日からの運動に活かしていきたいものです。