市民による平和宣言2008
イラクの事態は開戦から5年を経て完全に泥沼化し、アフガニスタンでも打倒されたはずのタリバンが復活して、両国では今も毎日のように死傷者が出ています。かくして、米国ブッシュ政権が始めた「反テロ戦争」は文字通り混迷状態にあります。その上、経済グローバル化がひき起す世界的な規模での格差社会化、温暖化を含む環境破壊、金融・食糧・農業・エネルギー危機のために、多くの人たちが貧困にあえいでいます。そのグローバル化の中枢部国家群であるG8が7月に開いた洞爺湖サミットでは、それらの国家が支える投機資本の破壊的活動によって、地球全体が危機的状況に追い込まれていることが明白になりました。また、この9月2日に広島で開催されるG8下院議長サミットは、「平和と軍縮に向けた議会の役割」をテーマにしていますが、米国・ロシア・フランス・イギリスの4大核保有国(核弾頭97%保有)の核軍縮が実行されない限り、核不拡散の対応についても説得力がありません。何よりも唯一の原爆投下国・米国のナンシー・ペローシ下院議長による被爆者への謝罪が必要です。
そんな状況の中、昨年度の世界の軍事費総額は、前年度比6%増の142兆4千億円にものぼり、冷戦後最高額となりました。とりわけ米国は、膨大な赤字を抱えて国家経済が破綻しつつあるにもかかわらず、史上最高額の国防予算52兆円を要求。さらに、「老朽化」した核弾頭を「信頼性代替用核弾頭(RRW)」に置き換える計画を進め、あくまでも核兵器を手放さない姿勢を示しています。核兵器による先制攻撃の可能性を含む米国のこのような核・戦争政策と外交政策こそ、北朝鮮の核開発計画廃止への躊躇やイランのウラン濃縮・核開発を助長し、NPT体制を崩壊させつつある重要な要因の一つであることは明らかです。人間を大量抹殺する核兵器に「信頼できる」ものなど一切ありません。
そのような米国の政策を、日本政府は、宇宙の軍事的利用を図る宇宙基本法の成立、ミサイル防衛、在日米軍再編などの面で米国の要求を全面的に受け入れることで支え、基地周辺住民や(イージス艦事故被害者)漁民、ひいては日本国民全体の生活と人命を脅かし、環境を破壊することになんら留意しない態度を取り続けています。米軍再編による沖縄の「負担軽減」には全く実体がなく、同時に岩国、神奈川など他の地域への負担増加が押し付けられ、横須賀には原子力空母が初めて配備されようとしており、日本はますます核化・軍事化されつつあります。軍事費は5兆円弱(一般予算の6%、世界第5位)という膨大な額にのぼっており、在日米軍駐留経費や再編事業のためには、今年度だけでも4200億円近い額の私たちの税金が文字通り浪費されています。さらに、全く経済的に採算が合わないだけではなく、環境汚染と核兵器開発という両方の面で大いに危険性をもつ六ヶ所核燃料再処理工場にも膨大な予算を充てています。その一方で、後期高齢者医療制度、障害者自立支援法に見られるように、社会保障面での予算を抑制し、当事者負担増の結果、私たちの生活は追いつめられるばかりです。
しかも、航空自衛隊のイラク空輸活動が憲法9条に違反するという名古屋高裁判決を頭から無視する態度を日本政府はとり、政府自らが憲法違反を犯していることになんら責任や恥辱を感じないという驚くべき事態にあります。戦後補償を求めるアジア民衆の法廷闘争や被爆者の認定をめぐる集団訴訟では、日本政府の責任が厳しく問われているにもかかわらず、相変わらず政府は全面的にその責任を認めることはせず、戦後63年もの間苦しんできた人たちの念に真摯に応えようとはしません。平和主義と人権尊重の基本である憲法をないがしろにする政府や政治家に対して、私たちは人道的怒りの声を今こそ上げなければなりません。
市民の力の連帯で世界を変えることができるということを、最近の「クラスター爆弾禁止条約」の成立が証明しました。私たちが行動すれば、DU(ウラン)兵器や核兵器廃絶も可能です。ヒロシマの願いは、日本国憲法の前文や第9条と同じく、「平和」という一言に尽きます。地球規模の平和を求める私たちは、戦争に備えるのではなく、揺るぎない平和を創り上げる不断の努力を重ねていく活動を広げていきましょう。
2008年8月6日
8・6ヒロシマ平和へのつどい2008(代表 湯浅一郎)参加者一同